ノーラン版『オデュッセイア』鑑賞前ガイド

観る前に知っておきたいことを、結末と旅の途中の出来事に触れずにまとめました。5分ほどで読めます。

夜明け前の紺色の海を進む一隻の古代ギリシャ船と、遠くに見える故郷の島

これだけ押さえればOK

  • トロイア戦争に勝った知将オデュッセウスが、故郷イタケに帰るまでの物語。原作は紀元前8世紀ごろに成立したとされるホメロスの叙事詩です。

  • 帰り道では海神ポセイドンに阻まれ、怪物や魔女のいる島々をさまよいます。

  • 故郷では妻ペネロペと息子テレマコスが帰りを待っています。館には妻に再婚を迫る男たち(求婚者)が居座り、財産を食いつぶしています。

  • 物語は「旅をする父」と「家で待つ妻子」の二つの線で進みます。

  • キーワードはゼウスの掟。旅人や客人をもてなし、客は主人を害さないという古代ギリシャの掟です。詳しく

背景:トロイア戦争

映画は戦争が終わったところから動き出します。そこに至る流れは次のとおりです。

  1. 1

    スパルタの王妃ヘレネが、トロイアの王子パリスとともにトロイアへ渡る。

  2. 2

    ヘレネの夫メネラオスの兄、ミュケナイ王アガメムノンを総大将に、ギリシャ諸国の王たちが連合軍を組んで出兵する。イタケ王オデュッセウスもその一人。

  3. 3

    トロイアの城壁を前に、包囲戦が10年続く。

  4. 4

    オデュッセウスが立てた木馬の策でトロイアが陥落する。ここから帰郷の物語が始まる。

トロイア戦争の4コマ。1 ヘレネとパリスが海へ、2 ギリシャ連合軍の出兵、3 10年続く包囲戦、4 城門前の木馬
番号は上の1〜4に対応。読む順は左上→右上→左下→右下。

舞台の位置関係

ギリシャ トルコ エーゲ海 イオニア海 直線で約510km 帰り着くまで10年 アテネ(現在の首都) イスタンブール ミュケナイ アガメムノンの国 スパルタ メネラオスとヘレネの国 トロイア 戦場 イタケ オデュッセウスの 故郷(小さな島) 200km
トロイアからイタケまでは直線で約510km。東京〜大阪(約400km)より少し遠いくらいです。帰り道でどこを通るかは、映画で確かめてください。

戦争の終盤を描いたのがホメロスのもう一つの叙事詩『イーリアス』で、『オデュッセイア』はその後日譚にあたります。

押さえておきたい3柱の神

左から、稲妻と鷲のゼウス、三叉の矛のポセイドン、兜とフクロウのアテナ
左からゼウス(稲妻・鷲)、ポセイドン(三叉の矛)、アテナ(兜・フクロウ)。持ち物を覚えておくと見分けやすくなります。
ゼウス

神々の王。旅人と客人を守る神でもある。

ポセイドン

海の神。オデュッセウスの帰郷を阻む。

アテナ

知恵と戦いの女神。オデュッセウスの守護神。

20年の不在

左は出征の日、赤ん坊を抱くペネロペが船出するオデュッセウスを見送る。右は20年後、同じ浜に立つ青年テレマコスと、機を織るペネロペ
左:出征の日。右:20年後の同じ浜。赤ん坊だったテレマコスは、父の顔を知らないまま大人になりました。

オデュッセウスが家を空けていたのは計20年。テレマコスは父の顔を知らずに育ち、ペネロペは夫の生死もわからないまま待ち続けています。

主な登場人物とキャスト

守る 阻む 対立も 旅 故郷イタケ 20年の不在 夫婦 父子 母子 再婚を迫る 対立 アテナ 守護の女神 ポセイドン 海の神 オデュッセウス イタケの王 エウリュロコス 船団の副官 ペネロペ 妻 テレマコス 息子 求婚者たち リーダー格:アンティノオス 館に居座り、財産を食いつぶす
点線は、海を隔てて20年会えていない家族のつながり。

旅をする者

  • オデュッセウスマット・デイモン平田広明

    イタケの王。腕力より知略・嘘・忍耐で道を切り開く英雄。

  • エウリュロコスヒメーシュ・パテル

    帰路の船団の副官。決断をめぐってオデュッセウスとたびたび対立する。

イタケで待つ者

  • ペネロペアン・ハサウェイ坂本真綾

    オデュッセウスの妻。再婚を迫る求婚者たちを知恵でかわし続ける。

  • テレマコストム・ホランド榎木淳弥

    息子。父の顔を知らずに育ち、家の危機に向き合う。

  • エウマイオスジョン・レグイザモ

    オデュッセウス家に仕える豚飼い。主人の帰りを待ち続ける。

  • メラントーミア・ゴス

    館に仕える侍女。

館に居座る者

王宮の大広間で宴を続ける求婚者たちと、柱の陰から見つめるペネロペとテレマコス
主の留守をいいことに、求婚者たちは館で宴を続けています。客が主人の家を食いつぶすのは、ゼウスの掟に反する振る舞いです。
  • アンティノオスロバート・パティンソン江口拓也

    求婚者たちのリーダー格で、最も傲慢な男。

神々と、旅で出会う者

  • アテナゼンデイヤ白石涼子

    知恵と戦いの女神。オデュッセウスを見守り、導く。

  • カリュプソシャーリーズ・セロン本田貴子

    海の果ての島に住む不死のニンフ。

  • キルケサマンサ・モートン

    人を獣に変える力を持つ魔女。

  • ポリュペモスビル・アーウィン

    ポセイドンの息子で、一つ目の巨人キュクロプスの一人。

トロイア戦争の人々

兄弟 姉妹 夫婦 夫婦 ともにトロイアへ アガメムノン ミュケナイ王・総大将 メネラオス スパルタ王 クリュタイムネストラ ニョンゴ(二役) ヘレネ ニョンゴ(二役) パリス トロイアの王子
兄弟が、姉妹をそれぞれ妻にしています。ヘレネとクリュタイムネストラはルピタ・ニョンゴの一人二役。
  • アガメムノンベニー・サフディ

    ミュケナイ王。ギリシャ連合軍の総大将。

  • メネラオスジョン・バーンサル坂詰貴之

    スパルタ王。アガメムノンの弟で、ヘレネの夫。

  • ヘレネ/クリュタイムネストラルピタ・ニョンゴ水樹奈々

    一人二役。戦争の発端となったヘレネと、その姉妹でアガメムノンの妻クリュタイムネストラ。夫同士も兄弟です。

  • シノンエリオット・ペイジ内田雄馬

    木馬の策でトロイア人を欺くギリシャ兵。ホメロスではなく、ウェルギリウス『アエネーイス』に登場する人物です。

語り手

  • 楽人トラヴィス・スコット武内駿輔

    英雄の物語を歌い継ぐ吟遊詩人。ノーランは、口承で伝わってきた詩とラップの近さを起用の理由に挙げています。

知っておくと深まる4つの視点

炉端で旅人を迎え入れ、食事と足を洗う水を差し出す家の主人
ゼウスの掟(クセニア)。主人は素性を尋ねる前に旅人をもてなし、客は主人を害さない。トロイア戦争も、メネラオスに客として迎えられたパリスがその妻ヘレネを連れ去った掟破りが発端とされます。

ゼウスの掟

古代ギリシャでは、見知らぬ旅人でももてなし、客は主人に害をなさないことが神聖な掟でした。ゼウスはこの掟の守り手です。旅先の島々でも、求婚者が居座るイタケの館でも、誰がこの掟を守り、誰が破るかに注目すると筋が追いやすくなります。

知略の英雄

オデュッセウスは力ではなく、策と作り話と我慢で切り抜ける英雄です。英語の "odyssey"(長い放浪の旅)はこの作品から生まれた言葉です。

時間の組み方

原作は時系列どおりではありません。帰郷10年目から始まり、それまでの冒険の多くはオデュッセウス自身の回想として語られます。『ダンケルク』で3つの時間軸を交差させたノーランが、この構成をどう組み替えるかが見どころです。

もう一つの帰郷

原作では冒頭から、同じくトロイアから帰国した王アガメムノンの家の話が繰り返し語られます。二つの家を比べながら観ると、ペネロペとテレマコスの立場がより鮮明になります。

出典

  1. 映画『オデュッセイア』あらすじ・キャスト(ciatr)
  2. 『オデュッセイア』吹替版キャスト一挙発表(シネマトゥデイ)
  3. ヒナタカの雑食系映画論 第241回(All About)
  4. Lupita Nyong'o playing two roles(ABC News)
  5. The Odyssey 2026 cast and characters(High On Films)
  6. Nolan Talks "The Odyssey" Creative Choices(Dark Horizons)
  7. Who Plays Who in 'The Odyssey'?(Netflix Junkie)